英語投稿論文が受理される秘訣


  現在、米欧日の学術専門誌において投稿英語論文の掲載を目指す日本人研究者は一人残らず熾烈な国際競争に晒され、投稿後に同じ領域の専門家による厳格な査読審査(ピアレビュー)を受ける必要性に迫られています。一方、英語論文の投稿を公募している各専門誌は、当該専門領域において毎年算出される IF 値により明確に格付けされており、小数点第3位までの数値の変動に基づきその優劣を競い合っています。その結果、「将来、他誌に引用される可能性を高める、より品質の高い投稿英語論文を入手したい」とする編集部側の思惑が働き、審査が年毎に厳しさを増しつつあります。
  ピアレビューシステムにおいて、投稿先専門誌の編集長との連絡を担当する筆者(投稿者、通常は筆頭著者)は、1)カバーレターを含む投稿論文ファイルのオンライン送信、2)投稿論文の内容に精通した同じ領域の専門家による査読に対する対応、3)査読者からのコメントに対する英文回答書を含む編集長宛のカバーレターの作成、という一連の三つの作業を行う必要があります。しかし、現実には、2)の段階に至る前に投稿論文が却下される事態が往々にして生じます。
  英語論文の投稿プロセスにおいて、「これらは投稿システムにおける手続き上の段階にすぎない」と安易に考える投稿者と各段階に固有の意味合いを見いだしている投稿者との間では、投稿する以前に、自身の投稿論文が受理される可能性に関して既に差が生じています。
すなわち、現行の査読システムにおける以下の三つのプロセス、

  • 1)適正なカバーレターの作成(~10%)
  • 2)図表の説明文を含む原著論文、症例報告等の投稿(60~80%)
  • 3)査読者のコメントに対する英文回答書を含む編集長宛のカバーレター作成(10~30%)

に関して、括弧内の数値で示されている受理の可能性に占める手続き上の重要性が歴然として存在しています。


1)十分に認識されていないカバーレターの重要性
  カバーレターは、投稿者にとって、「このような熱意のあるカバーレターが添付されているこの投稿論文に関しては、自分が考える最適な査読者に査読をお願いしよう。」との編集長の決断を促す唯一の手段と言えます。心に響く文面には、言語の壁を越えて人を動かす力があります。「試験の表題、著者名、試験結果、掲載の要望」を単に列記しただけの定型的なカバーレターを添付してしまうと、大変な労力と時間を費やして投稿した英語論文が事務的・機械的に取り扱われかねません。
  定型的な数行の素っ気ない英文のカバーレターを添付した場合、好意的に対応していただける欧米の編集長はおられません。
  投稿した英語論文が有する価値・メリットを編集長に対してアピールするには、「投稿先専門誌への掲載にかける投稿者の熱意」を編集長に十分に感じ取っていただけるようなカバーレターの文面を論理立ったストーリーに仕上げて送信する必要があります。そのような掲載にかける投稿者の熱意が正しく編集長に伝われば、より高い査読能力を有するより適切な専門家に対して投稿論文の査読が手配される可能性が高くなります。そのような効果を生み出すカバーレターを添付するだけで、現実に受理される可能性が最高で10%まで増加するでしょう。


2)投稿プロセスの核心である査読審査の実際
2-1)投稿論文が査読者に手配されないケース
  言うまでもなく、査読審査は投稿プロセスの根幹をなす段階です。しかし、残念ながら、人気度の高い専門誌においては投稿論文の大半がこの査読の段階を突破出来ずに棄却されてしまいます。数多くある棄却理由の一部として、以下のものが挙げられます。

  • ・投稿規定に準拠していない
  • ・読者のニーズに合っていない
  • ・査読者を手配する程の科学的成果を伴っていない
  • ・英語論文としての審査水準に達していない(英文としてリスクがある)
  • ・新規性(独創性)が無い



投稿規定に準拠していない
  生物医学領域に関しては、「生物医学雑誌への投稿に関する統一規定」(Uniformed Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals)に準拠して作成された英語論文を投稿する必要があります。しかし、同統一規定は、あくまでも一般原則を記載した規定集です。投稿英語論文が投稿先専門誌の投稿規定に完全に準拠しているかどうかを確認するには、同誌での掲載論文を参照した上でチェックを行う別途の作業が不可欠です。具体的には、専門誌の個別の投稿規定(抄録:250ワード以内、本文:6,000ワード以内、図表:6個以内等)を厳格に遵守する必要があります。構造化抄録(structured abstract)の作成や各ページへの行番号の挿入が求められることがあります。投稿した英語論文がこれらの個別の細かな要件が満たされていないと編集長に判断されてしまうと、投稿論文が査読者に手配されることなく、投稿後に即刻棄却される危険性があります。
  但し、抄録や本文を実際に250ワード以内、6,000字以内といった個別の投稿規定に準拠した英語論文に仕上げる作業は、大変骨の折れる作業です。何故なら、各概念・表記・段落を適切に取捨選択して、文章量を規定内に収める力量が、別途に必要となるからです。その結果、「投稿規定の厳守」は、多くの投稿者が悩み且つ手こずる難題になりがちです。もし投稿者がその対応に十分な自信が持てないのであれば、英文投稿論文の実践的な作成に関する十分なノウハウ・実績が掲載論文の実績により公的に立証されている専門家に依頼した方が、日々の診療・研究に忙殺されている医師や研究者にとっては、貴重な時間のロスを回避する妥当且つ賢明な対応策と言えます。


読者のニーズに合っていない
  通常の場合、投稿論文は、その内容に最も適していると投稿者が判断する専門誌に投稿されます。しかし、稀に、編集長の「他のより適切な専門誌に投稿するように勧める」との判断に基づき、投稿論文が棄却されてしまうことがあります。本来投稿すべき専門誌の IF 値が低いために、IF 値がより高い専門誌に投稿したいとの思惑が投稿者・共著者に働いている事態、投稿すべき本来の専門誌に投稿しているはずなのに投稿者と編集長との間で「読者のニーズ」に関する認識にズレが生じている事態等が考えられます。


査読者を手配する程の科学的成果を伴っていない
  編集長が投稿論文に求める「科学的成果」に関する具体的な内容は、投稿論文の成果の重要性や新規性、投稿先専門誌の当該領域におけるランク、同誌に掲載されている論文が有している科学的価値、当該専門領域において現時点で求められている研究のトレンド、投稿時における投稿論文間での競合の度合い、試験デザイン、試験の被験者数、試験のサンプルサイズ等、多数の要因により専門誌間で大きく異なります。
  現実には、どの専門領域においても、その頂点に君臨するトップジャーナルが厳然と存在しています。従って、ピラミッド型格付け構造中のその地位に応じて、各専門誌が要求する「科学的成果」に関する要求度は必然的に異なることになります。全く同じ論文がA誌に却下された後にB誌に受理される事態が現実に生じるのは、主に「科学的成果に関するこの要求度の差に起因している」と言えるでしょう。従って、投稿英語論文は、各専門誌が要求する水準の科学的成果を伴っている必要があります。


英語論文としての審査水準に達していない(英文としてリスクがある)
  英語論文投稿の場において、「スペルミス」、「文法ミス」、「表記ミス」は Poor English(拙劣な英語)と判定される三大要因です。これらの内の一つでも編集長(部)により検出された場合、投稿論文が最終的に受理される可能性が確実に消滅します。

新規性(独創性)が無い
  これは、既存の公表論文の模倣もしくは改変にすぎず、論文としての新規性(もしくは独創性)が無いと判定されるケースです。これまでに、弊社はA誌でこれを理由に却下された後にB誌で問題無く受理に至った投稿案件も経験しているので、投稿の継続を投稿者が即座に断念する必要性は全くありません。但し、これを理由として連続して却下される事態となった場合には、投稿戦略を根本的に見直す必要性に迫られることになります。


2-2-1)査読後に「却下」されるケース
  この段階で却下される場合、実に多くの理由が考えられます。
主な却下理由:
    ・他の投稿論文と比較して、掲載を考慮する優先度(プライオリティー)が低いと判定された。
    ・「拙劣な英語」と判定される上述の何れかの危険因子の存在が判明した。
    ・試験の方法論の詳細が不明瞭、不明確、不適切であることが判明した。
    ・母集団のサイズが小さく、統計学的な価値が疑問視された。
    ・同様な論文が既に公表されており、新規性に乏しいと判定された。
    ・被験者等の選択時にバイアスが生じており、データの信頼性が乏しいと判定された。


  弊社のこれまでの経験では、「優先度が低いこと」が上記の却下理由の大半を占めています。これは「データ力」が乏しいために競合に敗れたことを意味しますが、他の専門誌では異なる判断が下される可能性も十分にあります。なお、以前はこの理由で却下される事態はIF値がある程度高い専門誌に多く生じていたのですが、最近はIF値が1点台の専門誌でも頻発しています。この事実は、投稿の場における近年の競争の激化を明確に反映しています。
  上記の却下理由の内、却下後の再投稿作業に深刻な影響を及ぼすものは「新規性に乏しいこと」です。これは、同一の研究テーマ(例えば、特定の遺伝子や酵素の発見・構造決定)に関して複数のグループが競合しており、あるグループが他に先んじて論文を公表したケースが典型例です。一般的に投稿後1~4ヶ月を要する審査期間中に他の研究グループの投稿論文が先に公表された場合、審査中の投稿論文が却下に追い込まれる可能性があります。この意味で、「審査期間の最短化」は、投稿者にとって至上命題と言えます


2-2-2)査読後に「受理の可能性有り」と判定されるケース
  「受理の可能性有り=ACCEPTABLE」と編集長が判定した時点において投稿英語論文が最終的に受理される可能性は、査読の内容(マイナーコメント~メジャーコメント)に応じて、50~90%あります。しかし、査読者の個人的な好みで、言語学的に、あるいは専門用語・表記上、若干~大幅な見直しが要求される場合もあるので、投稿者は単純に喜んでばかりもいられません。原則として、改訂版が完璧な英文に仕上がっていない限り、再投稿論文が最終的に受理されることは一切ありません。
  特に、試験の方法論(試験材料の採取方法、処理方法、対象者の募集方法等)、サンプルサイズ、使用した統計手法、試験の論理展開や試験結果に関する著者の解釈に対する疑問等、試験の根幹に関わる重大なコメント(いわゆる、メジャーコメント)が査読者から寄せられた場合、それらに対する英文回答書の内容が受理されるかどうかの最終判断に決定的な影響を及ぼすことになります。


3)採択の最終判断を決定付ける、査読者のコメントに対する回答書の作成
  英語論文の投稿は、「山登り」にたとえられます。査読者からのコメントに対する的確な英文回答書が作成出来たのであれば、投稿作業としては「九合目」に達したと言えるでしょう。しかし、実際には、そのような理想的な英文回答書の作成が要求されるこの時期こそが、受理の栄冠を勝ち取るために投稿者に最大限の負荷が掛かる段階です。すなわち、適切且つ適格な英文回答書の作成が要求されるこの段階は、投稿英語論文の作成を遙かに凌駕する英文作成能力が要求される正に投稿の場における「正念場」と言えます
  例えば、3名の査読者から各々5個、計15個のコメントが寄せられた、と仮定します。一つのコメントが僅か3行であっても、それに対する回答に30行を要する場合も実際にありえます(ありました)。また、15個の内14個の回答内容に納得したとしても、最後の1個に対する納得が得られなかった場合、納得しなかった査読者が最終的に投稿論文の受理を編集長に進言しないという悲しい事態が生じてしまいます。この段階で何らかの原因により投稿者が査読者全員の説得に失敗すると、結果的にそれまでの努力が全て水泡に帰します。
  上述の内容を踏まえると、現行の査読システムに従って英語論文を投稿する際には、「以下の12の概念を十分に認識した上で適切な対応策を講じることが、受理の栄冠を勝ち取るための秘訣である。」と言えます。


1)「投稿論文の客観的・相対的価値を見定めた上で、投稿を行う。」
  どの投稿者も、もし可能であれば、よりランクの高い専門誌に投稿したいと望みます。しかし、その場合、投稿論文がより厳しい競争に晒されることは確実です。例えば、投稿専門誌の IF 値を 3 倍に上げた場合、残念ながら、受理に至るまでの競争倍率は単純に 3 倍とはなりません。より高いランクの専門誌には、より多くのそしてより高品質の英語論文が投稿されます。その結果、実際の競争の厳しさは、量的にも質的にも幾何級数的に激化します。従って、投稿先の専門誌の選定には、慎重且つ戦略的な判断が必要とされます。


2)「投稿英語論文の実力=データ力+英文力」
  「データ力」と「英文力」は、車の両輪にたとえることが出来ます。一編の英語論文として投稿するからには、本来掲載価値のあるデータがその中に含まれていることが必須であり且つ大前提です。しかし、どんなに素晴らしいデータが含まれていても、単にそれだけで投稿先専門誌において受理に至ることは決してありません。現実の英語論文の投稿の場では、現行の査読システムを最終的に突破するだけの十分な英文力を伴っていない場合、最終的には決して受理に至らず、結果的に時間と経費と労力だけが消費されることになります。また、「英文力」が改善されない限り、本来なら掲載価値のある貴重なデータが将来的にも掲載される機会を逃し続けて半永久的に埋没してしまう危険性があります。


3)「審査の動機付けを高めるカバーレターを作成する」
  前述した「心に響く」カバーレターを作成すれば、より適切な査読者の手配が期待出来ます。しかし、そのようなカバーレターを作成するには、当該論文の成果の本質を見極めた上で、簡潔明快な英文に仕上げるスキルが必須です。決して簡単に出来る作業ではありません。


4)「受理の可能性=英語論文の実力×査読者のコメントに対する回答力」
  上記の方程式は、右辺のどちらか一方に何らかの不備があると、受理される可能性は0%になることを意味しています。これは、受理に至るプロセスが現実には単純な足し算ではなく掛け算の構図を呈していることを示しています。と同時に、両方を備えることで、受理の可能性が文字通り倍加することを意味しています。但し、現実には遂行することは極めて困難な概念です。


5)「受理の可能性=編集長および査読者全員を納得させるだけの英文力」
  投稿論文にせよ、査読者に対する英文回答書にせよ、編集長および査読者全員を最終的に納得させるだけの英文として仕上がっていない場合、投稿論文が最終的に受理に至ることは決してありません。従って、英語論文の投稿の場における「ネイティブ」とは「受理の栄冠を最終的に勝ち取るに足る英文を作成する能力を有する者」という意味に解釈されるべき概念です。米国人や英国人のMD, PhD が校正して投稿した論文の一部が「ネイティブチェックを要する」と判断されてしまう悲痛なケースが生じている現実は、この定義の妥当性を裏付けています。


6)「英文力には、極めて重要な二重の役割と重要性がある。」
  一編の投稿論文である以上、「データ力」が第一義的に重要であることは言うまでもありません。しかし、英語論文として投稿するからには、編集長(部)の目に触れる瞬間(審査プロセスの入口)にその「英文力」が同時に評価されることになります。これは、同論文に審査プロセスの入口を突破するに足る最低限の「英文力」が備わっている必要があることを意味しています。もし「データ力」および「英文力」の何れも備わっていないことが判明すれば、審査プロセスの更なる段階に進むことは決してありません。しかし、入り口の段階では「英文力」に若干の不備があったとしても十分な「データ力」が備わっていれば、次の段階に進む可能性が高くなります。そして、査読者のコメントに対する投稿者からの英文回答書に基づき査読者が下す進言の内容に従って編集長が投稿論文を「受理」するかどうかを判断する段階(審査プロセスの出口)まで査読審査が進むと、当該論文が本当に掲載に値するかどうかという観点から「英文力」の判定が最終的に且つ厳格に下されることになります。つまり、「入口」と「出口」との間で、「英文力」に対する要求度に明確な格差が存在していることを十分に認識する必要があります。これは、審査の入口の段階では低解像度の図で査読には十分であっても、受理後の印刷時には高解像度の図の提示が投稿者に対して要求される構図と類似しています。換言すれば、投稿論文自体にどんなに素晴らしい「データ力」が備わっていたとしても、掲載に値する「英文力」が備わっていなければ、最終的に棄却されるか、もしくは当該専門誌が要求する掲載可能な水準に達するまで文章の加筆・修正が繰り返して要求されることになります。「拙劣な英語」は、審査プロセスの最終局面で受理に関する編集長の決断を確実に阻害します。結論すると、「英文力」には、審査プロセスの「入口」と「出口」において極めて重要な役割があると言えます。


7)「専門家=求められる英文力保有者という構図は、実際には成立しない」
  例えば、「重積」という医学専門用語があります。この専門用語の英語表記が intussusception であることは、医学辞書等で簡単に調査出来ます。しかし、実際の英語論文の投稿の場で求められている英文力とは、特定の専門用語の機械的置換能力ではありません。ここで、この用語を含んでいる「脱出回腸下部腫瘍により、明かな回盲部重積が生じることがある。」という一節を英文に仕上げると仮定します。もし It may be possible that an evident ileocecal intussusception occurs occasionally due to a prolapsed tumor of the lower ileum. という英文に仕上げて投稿したとすると、外科専門誌の編集長により即座に棄却されることになります。しかし、Frank ileocecal intussusception secondary to prolapsing tumors of the lower segment of the ileum may develop. とすれば、支障無く適切な査読者に手配される英文となります。
  もし「専門家=求められる英文力保有者」という構図が実際に成立するのであれば、英語論文の投稿の場において、専門家であるはずの投稿者自身が作成・納得した投稿論文が米国人や英国人の査読者に「拙劣な英語」と判定される矛盾した事態は、理論的にも現実的にも発生しないはずです。


8)「米国人、英国人のMD, PhD=求められる英文力の保持者という保証は無い。」
  7)で示した英文 It may be possible that an evident ileocecal intussusception occurs occasionally due to a prolapsed tumor of the lower ileum. には、実は文法的に全く問題がありません。しかし、たとえ文法的には一切問題が無くても、本英文は決して外科専門医による査読に耐えられる水準の英文ではないのです。では、何をどのように修正すべきでしょうか。この校正能力こそが、英語論文の投稿の場でネイティブスピーカーに求められる資質なのです。本英文でも十分であると判断する米国人、英国人の MD, PhD は、少なくとも英語論文の投稿の場で求められている人材ではありません。結局のところ、一見問題が無さそうな英文を的確に校正するには、英文原文の真意を読み解く能力、個別の一般用語や専門用語を適切に使用する能力、文章の論理展開を正確に分析する能力を含む高度な知識と経験とノウハウが要求されます。いわゆる「ネイティブチェック」を受けて投稿したにもかかわらず米国人や英国人の査読者に「POOR ENGLISH = 拙劣な英語」と判定される悲痛な事態は、表面的なチェックしかなされなかった事実を強く示唆しています。


9)「受理の可能性を最大限に引き上げるために、あらゆる工夫をこらす。」
  各専門誌の投稿規定は投稿者が英語論文を投稿する際に最低限遵守すべき原則を記述した文書ですが、表記上の細かな指示事項等を含んでいません。従って、実際に投稿する際には、投稿先専門誌の投稿カテゴリー別に、掲載論文の表記スタイル等を細かくチェックする作業が必須となります。
  例えば、論文の表題に関して言えば、表題中の各単語の最初の文字を大文字で表記する場合や表題全体の最初の文字だけを大文字で表記する場合があります。仮に、投稿先専門誌における表題の表記スタイルが前者であるにもかかわらず後者のスタイルで投稿したとします。「表題自体が意味不明瞭で英文として受理不可である。」と判定されない限り、これを理由として投稿論文が却下されることはまずありません。しかし、投稿者は、間違いなく、編集長から表記の前者への修正を後に求められることになります。
  このようなミスは、「この投稿者は我々の専門誌の表記スタイルを知らないか、十分な調査もせずに投稿してきた。→ 我々の専門誌を十分に理解していないか、投稿規定を軽視している投稿者である。」と編集長に誤解されてしまう危険性があります。「投稿論文に対する編集長の印象を悪くさせるあらゆる要素を事前に除去する工夫をこらすこと」は、査読審査プロセスにおいて受理の栄冠を勝ち取るための一つの実践的な秘訣です。


10)「個別の専門表記の妥当性の判断を、最良の情報源に求める。」
  各専門領域において、バイブル的な専門書や最高峰とみなされている専門誌、ならびに信頼性の高い医学辞書が存在しています。従って、個別の専門表記の妥当性の最終的な判断は、最も信頼性が高いこれらの情報源に頼る必要があります。
  例えば、「ST上昇」に該当する英文表記として、種々の英文医学専門誌において an ST elevation, an ST increase, an ST-segment increase, an ST-segment elevation 等、複数の異なる表記が掲載されています。ここで、「実際に英文専門誌に掲載されている表記なので、どれを使用しても特に問題は無いのではないか」と安易に判断することは、非常に危険です。やはり、循環器内科学の権威のある専門書において採用されている an ST-segment elevation を使用すべきです。このような堅実な手法に従って作成した英語論文を投稿すれば、査読者から専門表記に関してクレームが付けられる懸念が払拭されます。


11)「査読者からのコメントに対する英文回答書こそが、英語投稿論文の場における最重要文書である。」
  投稿後1~3ヶ月を要する査読プロセスを経て査読者が提示するコメントに対して投稿者が苦労して英文回答書を作成したとしても、同回答書が編集長および査読者全員を最終的に納得させるに足る内容を伴っていなければ、「受理の栄冠」を勝ち取ることは出来ません。英語論文の投稿の場において、この英文回答書こそが、投稿者にとって、最終選考に残った数編の競合論文の中から自身の投稿論文の受理を編集長に決断していただくための「正に最後の切り札」と言えます。説得に失敗すれば却下の判定が下され、投稿者は別の専門誌への再投稿を余儀なくされることになります。


12)「日本人にとっては、徹底的な協議を日本語で行うことが最善の手法である。」
  我々日本人にとって、英語で表現することが困難である個別の表記・概念に関する細かなニュアンスを確認するには、母国語である日本語で協議することが最善であることに疑いの余地はありません。仮に投稿先専門誌が国内の和文専門誌であれば英訳する必要性が元来生じない訳ですから、英語にはそれを表現する「言語的ツール」以上の価値がありません。但し、この「言語的ツール以上の価値が無い」という事実は、実は我々の母国語である日本語でも全く同じです。
  例えば、一般の日本人であれば、「術前、術中、術後」がそれぞれ「手術の前、中、後」を意味することを難無く理解するでしょう。しかし、それをたった一言で表す医学専門用語である「周術」を知識として有する日本人は、医療従事者、外科手術等を受けてその聞き慣れない医学用語を知る機会を得た一般の日本人等に限定されます。ここで重要な点は、「術前、術中、術後」という表記自体には一般的な日本語表記として全く問題が無い訳ですが、「受理されうる英語論文を作成するという明確な意識」の下で、「何か他により的確な表現は存在しないのか」との疑問を持って徹底的に協議することです。そのような協議の過程で、「周術」というより的確な日本語の概念に至る機会が生じます。つまり、{日本人の医学専門家にとっては、「術前、術中、術後」よりも「周術」の方がはるかに「違和感を生じない」表記である}との判断が下されます。しかも、これらの協議は、十分な知識を有する人材が居る場合、日本語であれば20秒以内に完了するでしょう。そして、{その疑問に関しては、「周術」という概念が該当しますね。英語では [perioperative] と言います。}と、ものの30秒以内で建設的且つ効率的な協議がなされます。しかし、仮にこの疑問を日本語を理解しないネイティブに対して英語で説明しなければならないとしたら、一体どうなるでしょうか。英会話に不慣れな日本人であれば、おそらく3分かけても [perioperative] という適切な英語表記を導き出せないでしょう。「周術」が使用されるべき概念であることが判明すれば、後は単に英訳すれば済みます。この事例は、「周術」という概念を使用すべきであるとの結論に導く日本語での事前の協議が、その後の [perioperative] への英訳作業よりも遙かに重要な思考プロセスであることを示しています。何故なら、「術前、術中、術後」という日本語表記ではどの和文専門誌にも受け入れられないからです。つまり、たとえそれらを文字通りに英訳(preoperative, intraoperative, postoperative)しても無意味であり、欧米人の医学専門家にもやはり「周術」に該当する英語表記しか受け入れられないことを意味しています。要するに、「術前、術中、術後」という一般的な日本語の概念に満足するのか、それとも医学的により的確且つ適切な概念を探求して「周術」という概念に辿り付けるのか、という文章作成の本質(「方針/哲学」)が問われています。日本語で十分に「練り上げた」概念が得られれば、残りの英訳作業が非常に迅速化されます。この姿勢こそが、欧米人専門家による「高くて厚い査読の壁」を打ち破る第一歩です。